天皇杯 05/1/1  (3) ハーフタイム・不安・決意
短い休息の時間、と言いたいところだが、コンコースはそんな雰囲気ではなかった。
私はタバコを吸わないけれども、喫煙家一同は、一様にややうつむき加減で一服している。空気が重いのは、煙のせいだけではないだろう。皆、顔に陰りを感じる。タイトルのかかった試合で、1点とはいえ、リードして迎えたハーフタイムとは思えないほど、沈みがちな雰囲気が漂う。
幾人かと、言葉少なく話す。
「厳しいね・・・」「そうだね・・・」「後半は1トップ?」「たぶんねぇ」「でも磐田相手に1点リードでは・・・・」
やはり、口が重い。

パスサッカーは、ヴェルディの代名詞と言える。その実情や実効性はともかくとして、少なくとも客観的立場から見て、ヴェルディがやっていることはパスを主体としたゲーム構成であると言える。そうしたチームの中において、小林慶行の果たす役割は大きい。彼はまず、非常にオールラウンドな能力を持つMFである。パスの精度、そしてキープ力がある。ファンタジックとは言えないが、判断が早く、正確なプレーを持ち味とする。ポジショニングも良く、ヘディングも上手く、体の強さもあり、ディフェンスでも粘りが効く。そしてもうひとつ、ヴェルディの中盤における「核」、林健太郎との組み合わせもある。林のプレーに関する是非は置いておくとして、少なくとも天皇杯においては、林と慶行の中盤での組み合わせこそが、チームを推進するエンジンであり、時計の振り子だった。これは僕の直感的印象なので正しくはないかも知れないが、恐らくゲーム中、林と慶行の間でのパス交換の本数は、他選手間よりもかなり多いと思う。
パスゲームを行うにあたっての重要なファクターは、パスの精度ももちろん必要ではあるが、ひとつの観点として「選手間の距離」という部分が挙げられる。一定に正しい距離がある、ということではもちろんなく、状況に応じて距離が広がったり縮まったりしながら、なおかつ正確に素早くパス交換が出来なければいけない。そして林と慶行は、例えお互いの距離が遠くかったとしても、双方が確実にパス交換ができるルートないしポジション取りを確保するように動いている(と僕には見えるし、またそれを可能にする技術が2人にはある)。つまりパスの「出し手」として、ひとつの選択肢をお互いとして確保し、さらに次のパスコース、ないしはキープ(ドリブル)を状況によって使い分けることで、パスのリズムを作っている。
2人の距離が狭いときは「タメ」の場面が多く、ここにもう1人が絡んで次の(大体は大き目の)展開へと続く。逆に2人の距離が広い場合は、バックラインへのつなぎも含めてリズムを取り直している場合が多く、どちらかの動きなおしと、ここから前へ当てるパスが一歩目になっている印象がある。この2人からボールが後ろに下げられる状況では、多くの場合、正確なロングフィードを持つ米山がフォローしている。林・慶行から米山へのパスは、最前線の「ランナー」がスタートする「トリガー」になっている場合も多い。パスの「受け手」=スペースへのランの担い手はこの場合、相馬や山田といった両サイドだけでなく、小林大悟もこれにあたる。いずれにせよ、ショートだけでなく、長いパスを織り交ぜたアタックのリズムが、天皇杯を通して見られたヴェルディのパステンポの良さにつながっていた。大きい展開で攻撃の一歩目を作り、相手バックラインを下げることでバイタルゾーンにスペースができれば、今度は慶行がそこへと進出していく。ガンバ戦の先制点はその典型だった。
林と慶行、2人の間でのパス交換を軸に、前線のFW2人の積極的なディフェンスと、中盤の動き出しの連携、というファクターが上手く結びついたことで、天皇杯でのヴェルディのサッカーが形を成していたと僕は考えている。
だからこそ、慶行の退場は痛かった。少なくとも、天皇杯を通して続けていたスタイルが、この試合の後半に限っては、事実上放棄されることを意味していたからである。
リードしている以上、オジーはカウンター狙いに完全に切り替える。飯尾を下げて平本を1トップ、そして中盤にテコ入れ。策は他にない。この時点で、僕は恐らく平野を投入すると考えていたが、懸念材料は平野のコンディションだった。怪我明けの久しぶりの試合、45分は苦しいと思えた。無理ならば、柳沢が入って山田がトップ下か。いずれにせよ、選択の余地はほとんどない。

「耐えるだけになるだろうな」。不安感が口をつく。
しかし、すでにロレツが回らぬほど酔った風のさわさんが、力強く言う。「勝つんだ!点を取って勝つんだぞ!」
皆、コンコースを後にして、ゴール裏へと舞い戻る。選手たちもピッチに現れた。
選手交代は飯尾→柳沢。
腹は括った。あとはやるだけ、そういう空気が漂い始めていた。
[PR]
by eixeix | 2005-01-24 00:59 | サッカーとか。
<< 天皇杯 05/1/1  (4)... 天皇杯 05/1/1  (2)... >>